それが掟か。
ぴたり定められた時間に、蛍垂は舞いだす。
川面から、 ふわり ふわり と闇夜を照らす。
儚い命の蟲が
人間など気にもせずに飛ぶのは
繋ぎ繋ぎ続けてきた命が
歴史の全てを丁寧に畳み込み
静かに記憶しているからなのか。
…蛍垂の群れに身を沈めていると、
そんな不思議な感覚を覚えるのだ。
ほっ…と強く飛んでは、
その余韻で静かに飛ぶ。
光は一定の間隔で光ったり消えたり、
互いに何かを通じ合っているかのよう。
母方の本家は京都で、
平家の落人であることを隠していた。
蛍垂は問わない。
そこにどんな生き様があったのか。
それが定めか。
ただ今年もひたすらに命を灯し、
この地球(ほし)と時勢を憂いている。